『クロノス・ジョウンターの伝説』感想

クロノス・ジョウンターの伝説 (ソノラマ文庫)

クロノス・ジョウンターの伝説 (ソノラマ文庫)

クロノス・ジョウンターと言う名の過去射出器とそれにまつわる人々を描いた、タイムトラベル中短編集。以下各作品に対してミニコメ。


「吹原和彦の軌跡」
不意の事故で最愛の人を失った和彦は、クロノス・ジョウンターを使って彼女を助けに行こうとする・・・。
なかなか変えることのできない過去に対してもどかしい思いをするとともに、クロノス・ジョウンターという機械についてこの一編で読者の理解を得ることに成功した作品だと思います。ラストもきれいにまとまっていて、好感が持てました。


「布川輝良の軌跡」
無名の建築家が造った建物を見たいがためにクロノス・ジョウンターに乗り込んだ布川の物語。
未来から来た布川と過去に存在するカップルが三角関係になるところがとてもユーモラスでおもしろかったです。ラストは想定外のものだったので驚きました。ミステリ好きも満足できるのではないでしょうか。この作品が集中最もおもしろく感じました。


<外伝>「朋恵の夢想時間」
少女期の後悔を抱えたまま過ごしていた朋恵は、過去へ飛びその思い出を改変しようと試みる・・・。
この作品だけクロノス・ジョウンターではなく、クロノス・コンディショナーが使われています。周りから見れば些細なことかもしれないけれど、本人にとってはいつまでも忘れることのできない記憶。そういうものは誰にでもあると思います。思春期の思い出が不意に甦ってくるような、ハートウォーミングな作品です。


「鈴谷樹里の軌跡」
チャナ症候群の新薬を手に入れた樹里は、過去に戻り、同じ病気を患っていたヒー兄ちゃんを救おうとするが・・・。
この作品ではそのストーリー性もさることながら、伏線の妙に驚きました。このときのこれがあーなって・・・とわかっていくのがとてもおもしろいです。ラストはやや強引さを感じないではないですが、十分に納得できるものでした。


通して読んでみるとクロノス・ジョウンターの性質がアップしていっていたり、少しずつ変化しているのが興味深かったです。また、タイムトラベルものではあるのですが、それを利用したラブストーリーだといえるとも思いました。あくまでも主人公は人。それは総タイトルに「クロノス・ジョウンター」という機械の名を持ってきていながらも、各タイトルにはそれぞれ人名を付しているところからも明らかだといえるのではないでしょうか。