『木乃伊男』感想

木乃伊男 (講談社ノベルス)

木乃伊男 (講談社ノベルス)

うーん、これはちょっと・・・。アイデア自体は悪くないと思うのですがディテールの甘さと中学生の作文レベルの文章(逆接が異常なくらい多い)のせいで台無しになっています。以下ネタばれ部分は反転して気になるところをピックアップ。


舞台の一つに病院が選ばれているのですが、元病院職員としては気になる点が多すぎました。最も気になったのは、主人公が入院している病院がどのような施設なのかということ。作中では「病院」としか書かれておらず、何科があるのかさっぱりわかりません。二階建てで、最大二十名の入院患者しか収容できない(11ページ)と記載されているので、病院としては最低規模と言えます(ベッド数が19床以下の場合、病院ではなく診療所になるので)。すると単科病院ではないのか、という見方が強くなるのですが、少なくともこの病院には心臓病と性病の人間が入院しています。いくら事務長と懇意だからといって、本来扱っていない科の患者を入院させるとは思えない(担当医師、診療材料、薬品の問題などから)ので、すくなくともこの二つは扱っているのでしょう。不思議な病院です。しかも、すべて二人部屋というつくりになっている(11ページ)らしいので、この病院には大部屋がないことになります。ということは、ここに入院しようと思ったら必ず差額室料を支払わなければならないのですね。かなり不親切な病院です(実際は患者の側が大部屋以外の部屋を希望したのでなければ、差額室料を支払う必要はないのですが、この場合が二人部屋しかないのですから、患者側が希望したということになってしまうのでしょう)。
(ここからネタばれ)あと気になったのは、スナフと共謀して京子をミイラ男に仕立て上げようとした玲香が、京子を車椅子に乗せ、病室から連れ出すシーン。病室は二階にあるのだから、車椅子に乗せて一階へ下りようとしたらエレベーターを利用しなければなりません(折りたたみ式の車椅子だったら、それを畳んで手に持ち、京子を背負うことも可ですが女性の玲香には難しいと思われます)。20床しかない小さな病院なのですから、そんなことをしていたら、ナースにすぐ見つかってしまうと思います。そして見つかったらすぐに破綻してしまう、かなり脆弱な計画ですね。
また、探偵役の向井は、主人公が玲香から何らかの薬を飲まされていたのではないか、と推理します。その入手方法を「君が心臓麻痺などの死を遂げたとき、万一解剖されても。検出できないようなうまい薬を、叔父さんの病院からこっそりくすねてきてさ」としていますが、そんな都合のいい薬がありますか? そしてどの薬がそうであるという知識が犯人にありますか? また、そんな薬がなくなれば病院では大騒ぎになると思います。そんなに管理の甘いところがあるとも思えません。
(ネタばれここまで)
一読しただけでもこれだけ突っ込みどころがありました。趣向はなかなかおもしろかったのですが、それをうまく生かしきれてない感じですね。惜しい。