『顔のない敵』感想

顔のない敵 (カッパ・ノベルス)

顔のない敵 (カッパ・ノベルス)

石持浅海の第一短編集。地雷シリーズ6編とノンシリーズ1編収録。以下各作品にミニコメ。一部ネタばれ反転あり。
「地雷原突破」
逆説の見事さが光る作品。キャラクターの特徴をうまく作品に生かしてあり、好感が持てた。
「利口な地雷」
トリック自体は容易に見当がつく。しかし動機の描き方がうまい。地雷という小道具をもっともうまく使っていたと思う。
「顔のない敵」
表題作だが、集中最も感心しなかった作品。ロジックがあまりにもずさんなのだ。
凶器から犯人が特定できるから、犯人は松葉づえを使っているコンであるというのは、あまりにも一足飛びに過ぎる。それだったら、医師であるマーガレットが、メスで頭部を刺したと考えることだってできるではないか。カンボジアでは医療器具が希少だから、犯罪の証拠だからといって、簡単に捨てることはできなかったと考えることもできる。いずれにせよ、コンが犯人というのは可能性のひとつでしかない。
また、坂田はコンの動機まで明かすが、そんなものはわかるはずがない。実際坂田が明かしているのは"そう考えれば最も納得がいく"動機でしかなく、それが真実か否かなんてことは犯人にしかわからない。隠された動機がないとは限らないのだ。

「トラバサミ」
「顔のない敵」同様、これもロジックに無理があり、感心しなかった。
「銃声でなく、音楽を」
設定にやや無理のある間は否めないが、マーチン社長がなぜそんな行動をとったのか? という謎を解き明かす過程は非常に魅力的。登場人物のキャラクターも面白く、楽しめる作品だった。
「未来へ踏み出す足」
被害者はなぜ頭部を接着剤で覆われていたのか? という謎は面白かった。感動的なラストはややとってつけた感がないではないが。
「暗い箱の中で」
設定にやや無理がある(そもそも最初に、理恵が「私が取りにいってくる!」と言って、一人で職場に戻ればそれで済んだ話なのではないか。走って戻れば、無理に追いかけようとする人間もいないだろうし)印象は否めないが、仮説のスクラップアンドビルドが楽しめる作品に仕上がっている。作者も述べているとおり、石持作品要素はぎっちり詰まっているように感じた。


地雷シリーズは本格としてだけでなく、地雷の現状を垣間見ることもできたので楽しめた。