『時間のかかる彫刻』感想

時間のかかる彫刻 (創元SF文庫)

時間のかかる彫刻 (創元SF文庫)

以前サンリオSF文庫で『スタージョンは健在なり』のタイトルで発行されていたもの。以下、各作品にミニコメ。


「ここに、そしてイーゼルに」
集中一番の長さを誇る中篇。ある意味壮大なストーリーは、舞城王太郎にも通ずるものがあるのではないかと思いました。正直、この作品を自分が理解できているとは思えないのですが、それでもおもしろく読むことはできました。もしかしたら、理解する必要なんてないのかもしれません。
「時間のかかる彫刻」
ヒューゴー賞ネビュラ賞を受賞した短編。ほとんど男女の会話で構成されています。盆栽が作品の重要なモチーフになっているのもユニーク。最後の一言が余韻を残す作品といえます。
「きみなんだ!」
普通小説寄りの作品。冒頭とラストに同じ台詞を持ってきていながら、その意味がまったく違っているところが上手いです。ラストの方ではエクスクラメーションマークをはずしているところも秀逸。
「ジョーイの面倒をみて」これも普通小説寄り。「何の得にもならないのに、なぜすすんで他人の世話をするのか?」という謎が明かされる過程はミステリ風。ラストもなかなか皮肉が利いています。
「箱」
集中、もっともSFチックな作品。ラストはまあ「これしかないよな」というまとめかたなのですが、プロセスはなかなかおもしろいです。
「人の心が見抜けた女」
これもどちらかといえば普通小説よりの作品です。短いボリュームの中で男女の出会いから皮肉な別れまでが描かれています。こういうの好きです。
「ジョリー、食い違う」
救いようのないラストが印象的な作品。その後、ジョリーがどうなったのかとても気になります。
「<ない>のだった――本当だ!」これはおバカな作品。スタージョンはこれをトイレで思いついたのだろうか? とか考えながら読むと、にやにやしてしまいます。
「茶色の靴」スタージョンの得意の発明モノ。おそらくラストの傍点部分が読みどころなのでしょうが、僕はメンシュがどんどん強大な存在になっていく過程のほうがおもしろく感じました。
「フレミス伯父さん」
これもどちらかといえばバカっぽい作品。でもこんな伯父さんがいるといいな。
「統率者ドーンの<型>」
どうも上手く煙に巻かれたような印象を受ける作品なのですが、納得させられたのもまた事実。このへんがスタージョンの上手いところなのかな。
「自殺」
これはチープな言い方をすれば「死と再生の物語」。これまたラストがとてもいいです。


私的ベスト3は「ここに、そしてイーゼルに」、「人の心が見抜けた女」、「ジョリー、食い違う」。他の作品も良かったですけどね。