『十八の夏』感想

十八の夏 (双葉文庫)

十八の夏 (双葉文庫)

「花」をテーマにした連作ミステリ。表題作は日本推理作家協会賞を受賞しました。以下、各作品に対するコメント。一部ネタばれ反転しています。
「十八の夏」
一読して、うまい、と思いました。この作品は姉との会話を冒頭において、父親のフリン相手と知りながらもその人に惹かれていってしまう主人公を描くことも出来たはずです。しかしそれだと普通小説になってしまいます。だから描き方を工夫して、上質なミステリとして仕上げたのではないでしょうか。「何を描くか」も大事ですが「どう描くか」と言うことも重要なのだと改めて感じさせてくれた作品です。
「ささやかな奇跡」
ミステリ的にはやや薄味。いわゆるハートウォーミングな話で「ぬるい」と感じる人もいるでしょうが、僕は好きです。大家さんのキャラが抜群にいい。
「兄貴の純情」
兄貴のエキセントリックなキャラが光ります。これもミステリ的には薄味ですが、そんなことはどうでもいいと思えるくらい、引き込まれました。
「イノセント・デイズ」
他の作品と比べるとかなり暗め。ミステリ的には凝っていて、振り回されるような印象を受けました。救いのない物語ですが、最後の一行が物語にかすかな光を当てたような気がします。単行本版ではどうか知りませんが、文庫本だと見開きでこの一行だけが最後にぽつんと残されていて、結構印象的でした。もしわざとやっているのだとしたらすごいなあ。


冒頭でも述べたようにこの作品は「花」をテーマにした連作ミステリとなっていますが、僕はこの作品に共通しているテーマは「家族」なのではないかと思いました。語弊を招くことを承知で書くと、4編すべてに多少問題のある家族が登場します。ネタばれになるので反転しますが、「十八の夏」では主人公の母親が更年期障害で、父親がフリンをしています。「ささやかな奇跡」では父子家庭。「兄貴の純情」では教え子と再婚した教師。そして「イノセント・デイズ」では二組の家族間で殺人が発生しています。これらの家族の形態を通じて光原氏が言いたかったことがなんなのかはわかりませんが、「家族だからなんでも許される」とか、「家族の絆は何よりも濃い」といったことではないことだけはたしかだと思います。僕が感じたのは家族だからこそ許せないことも多い、でもやっぱり許せることも多い。というやや矛盾したものでした。家族というのは厄介なものだな、と改めて考えさせられました。


そうそう、あとがきに政宗九さん(id:mmmichy)さんの名前が出てきたのにはちょっとびっくりしました。